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2007年7月23日 (月)

回転寿司の風景

ヌチャナートは何故か寿司が気に入っている。
タイでは生魚を余り食べない。その理由の第一は衛生的でない。第二は新鮮な物が少ない。第三は寄生虫がいる。
こんな理由でタイでは魚は熱をかけてから食べる。
ヌチャナートは魚が好きだが生魚や寿司は食べないだろうと思った。
日本の食文化を教えるために、寿司屋に連れて行ったら、寿司が気に入ってしまった。
ウチが行く寿司屋は回転寿司だ。
これは俺もラクチンだから歓迎する。いちいちメニュウを説明し注文する必要がない。
ヌチャナートが勝手に自分が好きな寿司をとって食べてくれる。
今日も寿司を食いに行こうと言う。
「ええっ!またかよ!!」
魚をあまり好まない俺は寿司屋に行くのを躊躇う。
それでもヌチャナートに押し切られて寿司屋に行くことになった。

あるお父さんがこぼしていた。
「回転寿司に行くとウチの子供は魚だけを食べてご飯を残すんだ。しょうがないから俺がご飯を食べる。
飯だけを食うから腹が一杯になって、寿司が食えないんだよ」
その話を聞いて、可笑しいやら気の毒やらで同情したが、悪いけど笑ってしまった。

「あら、あの子供は魚だけを食べてご飯を食べないわ」
ヌチャナートが驚いたような声をあげる。まさかあのお父さんの家族ではないだろうな?
俺はどきっとしながら振り返って、ヌチャナートが見ている方向を見た。
俺が知っているお父さんではなかった。
皿の上には手をつけないご飯が一杯になっている。
そんな皿が二皿もある。これを丼に入れたら丼が山盛りになる。
なんとまあ勿体無いことをするのだ。
「世界には飢えた子供が沢山いる。食べ物を無駄にしてはいけない!」
なんて善人ぶった説教は俺には不似合いだ。
食べられるおいしいご飯がそのままゴミ箱に行くと思うと残念で悲しくなる。
終戦直後の食糧難の時代には俺達庶民は野の草を食って生きてきた。
草よりも美味い米飯がゴミになるのか!許せない!怒りがこみ上げる。
豚の餌にでもなるのなら、慰められるが。
これがそのままゴミとして捨てられると思うと情けなくなる。
それを黙って見ている親も親だ!
「金を払えばいいんだろ!飯を食おうと食うまいとこっちの勝手だ!」
そんな風に考えているのかもしれない。
「高いと言ったって一皿100円じゃないか。いま時100円なんてたいした価値じゃないよ。
食べたくないものは食べなくてもいいんだ」
なんて考えているのかもしれない。それは傲慢なとんでもない考え違いだ。

このベルトに乗ってくる寿司は「安く、美味しく食べてもらおう」という店の努力もある。
美味しい米を作ろうとする農家の努力もある。体をはって荒海で漁をする人がいる。
米や魚を運ぶ流通業者の努力もある。
社会全体の努力で安くて美味しい回転寿司が成り立っている。
自分の周囲の人々の努力のおかげで、家族で低廉な価格で外食を楽しめるのだ。
感謝して回転寿司も食べなくてはいけない。
こんなにも沢山の飯が残っているのを見たら、店で働く人はがっかりする。
店の人々の気持ちを考えると、申し訳ないと思ってしまう。
(なんで俺が謝らなくちゃいけないんだよ!!)
酢が入っているから寿司米は腐りにくい。あとで食べるのなら、冷蔵庫にいれておけばいいのだ。
あの寿司米を持ち帰れば、簡単に散らし寿司が作れるだろうに!
ヌチャナートも「悪い人ね」と呟いていた。

次々と寿司が流れてくる。見慣れぬものが流れてきた。クラゲの寿司だ。その皿を取った。
「ヌチャナート、これを食べてごらん」
「なあにこれ?」ヌチャナートは皿を覗き込んで考えている。
「これは・・・・」
クラゲってタイ語でなんて言うのか思い出せない。鞄から英タイ辞書を取り出す。
英語だからちょっと面倒だが手帳ほどの大きさの便利なタイ語の辞書だ。
クラゲは英語で何と言ったけな?jelly fishだったな。読みにくいタイ文字を読み上げるとヌチャナートは理解した。
寿司を食いながら辞書を引く家族はウチだけだ。苦笑しながらクラゲの寿司を食った。
これも回転寿司を食う平和な家族の風景だ。
「ねえ、次、何を食べる?」
わさびをたっぷり入れた醤油に寿司をつけながら、ヌチャナートは次の寿司のことを考えている。

2007/7/22

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