鹹馬鮫、鰆の塩漬け
ヌチャナートはタイの食材屋で魚を塩漬けにして醗酵させたおかしな
物を買って来た。俺にはおかしな物だが、タイ人には通常の食材だ。
それだけでもひどいにおいがするのに、それを煮込んで出汁をとった
からどんなにおいが漂うか想像できるだろう。
腐った魚のにおいと同じだ。俺には悪臭だが、ヌチャナートには
美味しそうなにおいらしい。
日本人には鰹節で出汁を取る時のにおいはなんでもないにおい、
食欲をそそるにおいだが、外の人々には悪臭と取られる。
それと同じだろう。
「なんだよ、このにおいは?」
「アハハハ・・・。臭いの?」
「臭いよ!」
「これを使ったのよ。パーシンよ。」
パーシンなんてどんな魚か知らない。
「海にいる大きな魚よ」ヌチャナートは説明してくれた。
パーシンなんて言われて、俺が持っている幾つもの辞書を見たが、
そんな単語は載っていない。
ヌチャナートはパッケージを見せた。
大きく英語で書いてある「鯵」という単語に気づいた。
よく見ると英語、フランス語他で「塩漬け鯵」と書いてある。
ヌチャナートの話から推定して、これは大型の鯵の一種なのだろう
と思った。
パッケージにはヌチャナートが読めない漢字も書いてある。
まず「鮫」という文字が目に入ったから俺は驚いた!
人を襲って食べるのでタイ人は鮫を食べない。
日本人が鮫を食べるのを知ってヌチャナートは驚いていた。
それなのに、ヌチャナートは鮫の加工品を喜んで買ってきた。
「何故だろう????」
よく見ると鹹馬鮫と書いてある。鹹は塩漬けという意味だ。
つまりこれは「馬鮫」という鮫を塩漬けにしたものと解釈できる。
おいおい、鯵と鮫は別物だぜ!
パッケージを裏返すと成分の一覧表があり、king mackerelと書い
てある。漁業とか水産関係者以外でこんな名前の魚なんて知らな
い。辞書でking mackerelを調べるとヨコシマサワラと書いてある。
これは鮫ではないらしいと分かった。更に調べるとヨコシマサワラは
体長が2メートルにも達する大型の魚だとわかった。体長は鮫にも
似ている。しかし鮫ではない。
鮫(フカ)の鰭は中国人が大切にする高級食材だ。
ヨコシマサワラの体長は鮫みたいだが、下等な鮫という意味で馬鮫
と中国人は書くのかな?そんな想像をしていた。
鹹馬鮫で味付けした料理が出来上がったらしい。
「あら美味しいわよ。味見して御覧なさいよ。」
においに閉口していた俺に無理矢理 味見させた。
食べてみると、あの嫌なにおいは飛んでおり、旨味だけが残っている。
良い味ができあがっていた。
2008/9/27
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