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2009年3月 2日 (月)

タイの火事場

1 急げ!

緊急自動車のけたたましいサイレンがなった。見ると民間の救急車
が二台 先を争うように路地から出てきた。
民間の救急車の評判はよくない。交通事故などでは最初に駆けつ
けた会社が処理権を持つ。時には遺体の奪い合いで救急車どうし
で喧嘩になるという話もある。
「どうせいつもの交通事故だろう。」気にもしなかった。
しかし町の様子が変だ。高い所にいる人が地上の人に
「あっちだ!」と指をさしている。俺は指をさすほうを見た。
黒い煙があがっている。普通の量ではない。

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「よおし、火事場に行くぞ!」
野次馬根性がむくむく持ち上がってきた。近くで火事や事故がある
と、日本でも野次馬に駆けつける俺だ。タイでも野次馬をやる。
罹災者にはお気の毒だが、よほど運が良くなければタイの火事場
なんて見たくても見ることはできない。この機会を逃がしてはいけ
ない。他の予定を無視しても火事場をみなくていけない。
火事場は近いぞ!急げ!俺は日本の町の感覚で煙の位置を
推定していた。あのビルの近くだ。
急いだが目的のビルになかなか近づかない。こんな時に限って、
トクトクもサムローもいない。汗を拭きながら歩くしかない。
目標のビルに来たら、煙はそのビルのはるか後ろからでていた。
早くしないと火事は消えちゃうじゃないか!今までの黒い煙が白く
なり始めた。
急げぇー!煙を目指してめちゃくちゃに歩いた。
最初のうちは自分の位置を確認しながら歩いていた。
もう自分が何処にいるのか分からない。
外国の町で迷子になると、うろたえる。
今はうろたえているヒマはない。
火事場に急がなくてはいけない。見覚えのある街角に来た。
「えっ?!こんな所に来たのか?」そんな思いにふけるより、
早いとこ火事場に行かなくてはいけない。この辺に来ると野次馬
らしい雰囲気の人が一定の方向に向かっている。
日本の野次馬がもつ雰囲気と同じだから、彼等が俺と同じ野次馬
だとすぐにわかった。こっちの方から進むと早いだろうと小さな
路地に入った。おばさんが立ち話をしている。
「アンタ、火事場にいくんでしょ!あっちよ。」
おばさんは俺が野次馬だと見抜いていた。俺は苦笑いする。
「この道は行き止まりだよ」別のおばさんも声をだした。
言われたように道を進むと火事場らしい臭いがする。

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道路は既に封鎖されている。手薄な警官の隙を盗んで封鎖線を
突破した。一緒に突破したタイの野次馬と臭いの強い方向に歩く。
道路には消防の水が流れ始めている。第二次封鎖線まで来たが
ここは厳しい警戒で突破できそうもない。
そこから様子を探った。
狭い路地の奥で火事が起きたのだが全体の様子が見えない。
火事場の隣は寺だ。寺の坊さんまで野次馬をやっている。
小坊主は鐘楼のような高い場所に上ってみている。あそこなら、
よく見えるだろうな!小坊主が羨ましかった。

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時々、プラスチックが燃える臭いがする。

   
これが民間の救急隊員だ。ヘルメットもせずガーゼのマスクをする
だけだ。耐火服を着ていないから火と煙を潜って中に居る人を救出
することはできない。燃える家の中から救出された怪我人を病院に
搬送するしかできない。搬送すると言っても、この狭い路地だ。
いくらサイレンを鳴らしてもゆっくり移動するしかない。
救急隊員は集まって話をしている。仕事の打ち合わせなのか?
笑いこけたりしている。業務上の話をしているように見えない。

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2 翌朝

翌日、火事場を改めて見にいくことにした。寺の庭を抜けて火事場
に行こうか?それとも路地を抜けて行こうか?
路地を抜けて行くことにした。この町は100から200メートル四方が
町の一ブロックだ。そのブロックの中に路地がひしめいている。
路地に入ると、迷路のようになっており、地元の人しか出口が分か
らなくなる。カスバやメディナの雰囲気に似ている。
入り込んだら出られなくなる。こっちが近道だと思って路地の曲が
り角を曲がろうとした。角の店の女が
「行き止まりだよ。こっちから行きな。」と声を掛けてくれた。
言われた道を進むと右に左に曲がりくねる道が続いている。

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この路地から大通りに抜けられるのだろうか? 道は一本しかない
からこのまま歩き続けるしかない。丁の字に出た。突き当たりは
長い塀だ。動物的カンで塀に沿って歩くと昨日の火事場に来た。
このような路地にある家は古材で出来ている。

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しかも家が密集している。何処かから出火すればたちまち延焼する。
 
こんな狭い場所だ。消防車が何台駆けつけたのか分からない。
消防車が入れるのかどうかすら分からない。曲がりくねった路地に
は絶対に消防車は入れない。昨晩見た水の量から判断しても放水
量は少ないと思う。
これは俺の推定だが、こんな場所に駆けつけたタイの消防は焼け
ている家は焼けるままにしておいて延焼を防ぐことに専念する
江戸火消しと同じ方法をとるのではないか?
そんな消火方法しかとれないだろう。

椰子やパパイヤなど何本もの木が植わっている庭で火事は止まっ
た。植木の葉は燃えて枯れている。植木が延焼を防いでいた。
防火の役割を植木が果たしているのを見た。

3 燃えない物

大火だから全てが燃えてしまうだろうと思うが、燃え残る物もある。
美容院のような家がある。大きな鏡が美容院らしさを思わせる。
その家に白いプラスチックの椅子がある。プラスチックの椅子は
溶けもせず元の形を留めている。

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ソーセイジを売っていた店も焼けた。何段かに重ねられたソーセ
イジの中に殆ど焦げていないソーセイジがあった。
よく大火の中で奇跡的に助かる人がいる。命拾いした人はこの焼
けなかったソーセイジのように、偶然が偶然を呼び其処だけ熱風や
火炎がこなったのだろう。

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色の付いた食材をいれたガラスだかプラスチックの瓶が熱で溶けて
いるのが哀れだ。

4 現場検証

警察による現場検証が行われていた。
犯罪科学警察と書かれたジャンバーを着た警官が盛んにデジカメ
で撮影している。別の警官は事情聴取をしている。
6軒ほどが焼けた大火なのに、捜査員が少ないのに驚いた。
町には何をやっているのかわからない警官が沢山いる。
その警官を捜査に回せばいいのにと外国人は思う。

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5 階段から二階に

燃え方を見ると火は階段を駆け上り二階から屋根に燃え移った。
タイの家で火事に遭遇したら一刻も早く階下に逃げなくてはいけ
ない。足を骨折するかもしれないが、二階から飛び降りれば命は
助かる。火の回りはかなり速い。躊躇する暇はない。
命が助かる手段を瞬時に判断しなくてはいけない。物にこだわる
と命を失う。

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「俺はスプリンクラーのついたホテルに泊まっているから大丈夫だよ」
なんて安心してはいけない。リッツ、ヒルトンなど世界的チェーンの
ホテルなら大丈夫かもしれないと俺は疑問形で言っておく。
多くのホテルはスプリンクラーがあっても点検などやっておらず、
作動しないと思った方がいい。
二流以下のホテルでは自分で自分の命を守らなくていけない覚悟
が必要だ。非常口も施錠されており、逃げ出せなくて多くの犠牲者
をだした例がある。

6 消防車出動

翌日また火事があった。町の人が「火事がどうのこうの」と話して
いた。昨日の火事のことかと思ったら、別の方向を指差している。
通りすがりに耳にした会話だし、俺のタイ語の理解力がないから
誤解している可能性がある。気にしないまま広い通りに出ると
遠くで黒い煙が上がっているのが見えた。先ほどの火事の話は
このことだったのだ。今日の火事はかなり遠くだ。
野次馬はやらない。俺が煙を発見してから既に7-8分が過ぎて
いる。その頃になって消防車のサイレンが聞こえた。
町の人が火事の話をしてから10分も経って消防の出動だ。
出動が遅すぎる!既に別の消防が火事場に駆けつけ消火を
行っているが手に負えず、援護を要請した?
この消防車は援護に駆けつけるのかもしれない。
それにしてもタイの消防車は粗末な設備だ。乗っている隊員も笑って
おり、緊張感が見られない。

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7 火事が多い

乾季だからもう何日も雨が降らない。空気も草も乾燥している。
ちょっと火がつけば大きな火事になる。町をはずれ郊外にでると
道路脇が焦げている。あちこちで山火事が発生している。
自然発火なのか?多くは運転手が投げ捨てる煙草が原因と思わ
れる。煙草を車の灰皿に捨てるというほんのちょっとした手間を
惜しんで大きな物を失っている。
20キロほど走っただけで既に鎮火したもの、炎上中のものを含め
て何十箇所も山火事を見た。
山火事は国民的財産の損失と誰も考えない。

8 火の取扱

多くのタイ人はちょっとした手間をかけることを嫌う。
それが日常生活から工業製品にまで至っている。
俺が観察した範囲の火の取扱だ。ガスがあるのだが炭火で煮炊
きすることが多い。
炭に火をつけるにはローソクかプラスチックを使う。
ローソクに火をつけて蝋を炭の上にたらす。あるいはポリ袋のよう
なプラスチックに火をつけて溶けたプラスチックを炭の上に垂らす。
どちらも長時間高温をだす。それを放置しておくと自然に炭に火が
つく。炭に着火するまで誰も火の面倒をみない。
「何もしなくとも放って置けば火がつくよ。団扇でバタバタ扇いで火を
おこすなんて面倒だよ」
と考える。調理が終わると炭が燃え尽きるまで放置しておく。
火をつけて消すまで人間が火の面倒をみない。
これでは火事が起こっても不思議はない。
タイの田舎ではこのような取扱でも危険性は低い。
問題は田舎から人口・人家が密集した都会にでてきても田舎で
行っていた習慣を改めないことだ。

日本人はコンロに炭を入れたら団扇で扇いで火を起こす。
調理が終わったならまだ燃えている炭を消壷にいれる。
着火から消火まで人間が火を管理している。

消壷と言っても分からない人が増えた。消壷というのは金属または
陶器の壺でその中にまだ燃えている炭や薪を入れて蓋をする。
燃えている炭はその壺の中で酸欠になり消える。
消壷の中で消えた炭を消し炭といい、次に炭を起こす時に着火材
として使う。
「危険だから、着火するまで見張り、調理を終えたら火を消せ」
と言っても、そのちょっとした手間をかけることをタイ人は嫌がる。
その結果、大きな物を失う。

9 火事にあったなら

乾季のタイでは火災の危険が極めて高い。
雨季でも乾季でもタイで火事に会ったら、とにかく逃げろ!
火の回りは日本の民家より遥かに速い!
消防なんてあてにするな!
酸素マスクをつけた消防隊員が救助に来てくれるなんて考えるな!
それは大富豪を救うために使うものだ?
自分の命は自分で守れ!
物や金を捨てても命を守れ!

焼け跡からこんなものを学んだ。

2009/2/27



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