パイナップルの缶詰
パイナップルの缶詰が100円ショップにあった。俺は「うーん」と溜息をつき
遠い昔を思い出した。
あの当時はパイナップルは缶詰でしかお目にかからなかった。
生のパイナップルなんてない。例えあったとしても今の金で一個数万円
もしくはそれ以上はしただろう。パイナップルと言うのは缶に入っている
ものだと思っており、生のパイナップルがあるなんて想像もしない。
パイナップルの缶詰なんて言葉は長くて言いづらいから、俺たちはパイ缶
と言っていた。あの当時、パイ缶はデルモンテ製品しか日本に入ってこ
なかった。他にもあったのかもしれないが、緑のラベルのデルモンテの
製品しか俺の目につかなかった。
今から考えれば随分不親切なのだが、ラベルに内容物の絵がない。
ラベルには品名が横文字で記されている。それが英語なのかオランダ語
なのか、仏語なのかわからない。俺たちはそんな横文字を読めないし、
パイ缶を売っている店も横文字なんて読めない。
それでも間違いなく、消費者にパイ缶が届くから驚きだ。
ある時、お礼にパイ缶を貰った。贈ってくれた人もそれがパイ缶だと思って
いた。お馴染みの緑のラベルの缶詰だから俺もパイ缶だと思っていた。
「さあ、パイ缶をあけるぞ!」
俺はわくわくした。缶を開けると黄色いパイナップルではなく、白い果物
が入っていた。多分、洋梨か桃だったと思う。果物の名前は分からない。
甘くて美味しいのだが、パイナップルではないのでがっかりした。
パイナップルを期待していたのに、桃を食わされると、どんなに美味しい
桃でも美味しくない。桃を食ったのか洋梨を食ったのか覚えていないが、
パイナップルを食えなかった悔しさは今でも覚えている。
2010/6/19
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント