外出禁止令発令
町はいつもと変わらないように見えたが町のあちこちのテレビに人だかりが
できている。兵隊の動き、黒煙が上がる空、いつものテレビニュースと同じ
に見える。露天商がノートパソコンでニュースを見ている。
音声はスピーカーから流れる。隣の露天商がパソコンを覗き込む。
ニュースを見ながら人々はため息や驚きの声をあげる。
こんな所がいつもとは違っていた。
英字紙はバンコックの混乱を伝えている。いつもと同じだ。
おおごとにはならないだろうとネットカフェに向かう。
ネットでの作業と言ってもメールのチェックなどたいした事ではない。
日本語フォントのないタイのネットカフェで日本語で文章を作るのは面倒だ
が、時間をかければなんとかなる。一応作業を終えてニュースを見た。
日本のニュースサイトでもバンコックの騒動を伝えている。
ネットカフェの店員が見ていたテレビが突然、英語で話し始めた。
政府の報道官と思える男が政府の立場を説明し、
「この混乱は今後、何日も続くであろう」と言って演説を終えた。
まだ、おおごとにならないと思っていた。
ネットでニュースを見ていると、外出禁止令が発令されていた。バンコックだ
けのことだろうと気にもしなかった。念のため、対象地域を見ると、俺が居る
地域も対象となっている。時計を見ると18時を過ぎている。
外出禁止時刻が近づいている。急いで帰らなくてはいけない。
日本で外出禁止令とか戒厳令なんて経験していないが、外出禁止令を
破ると面倒なことになるのは明らかだ。詰まらないことで問題を起こすべき
でない。ネットカフェの代金を払って店をでた。まだ外出禁止時刻20時まで
余裕がある。それでも途中でなにがあるか分からない。
ソンテウで帰ろうか?外出禁止時刻までに確実に戻るには、トクトクを利用
した方がいい。大通りに出たが何故かトクトクは走っていない。
たまにトクトクが来ると三車線の中央車線を走り去る。
どのトクトクにも客が乗っている。時間はどんどん過ぎていく。薄暗くなり
少々あせり始めた。
「おかしいな?やはり異常だ。ボコソに行けばトクトクを捕まえることができ
るだろう」ボコソに行くと、トクトクがいた。値段を交渉してトクトクに乗り、
20時前には帰宅できた。家に帰ると、皆はほっとしたようだ。
「赤シャツ軍団が、あちこちに放火すると騒いでいるのよ」
俺の好きな古い木造のホテルも放火の対象になっている。
テレビ局3チャンネルが放火された。どのテレビチャンネルも同じ放送を
流している。
普段は使うことがない、外出禁止令なんてタイ語を辞書で調べておいた。
近所の人は俺が外出禁止令の発令を知らずに、まだ町に居るのだと思っ
ていたらしい。
「外出禁止令だから、帰ってきたよ」
俺が外出禁止令を知っているのに、皆は驚いたようだ。
2010/5/19
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