刃物を研ぐ
建築現場で刃物を研いでいる男がいた。
俺にとっては極めて驚きだ。
今までに見てきた範囲ではタイ人は刃物を研いでいないからだ。
俺が感心して刃物を研ぐのを見ていたら、男は得意になって電動
鉋の刃も研ぐのだぞと鉋の刃を見せてくれた。既に研ぎ終わった
らしく刃は銀色に光っていた。
日本の調理人にとって包丁は侍の刀のようなもので、包丁に調理
人の魂が宿っているように感じている。
包丁を大切にし包丁を磨き上げている。
タイ人は包丁を研がないし、洗わない。水ですすぐぐらいだ。
洗剤をつけて洗わないから包丁に油がぎっしりついている。
ある時、砥石を買って来て包丁を研いだ。するとまず油が落ちて
砥石についた。
「こうやって包丁は研ぐのだ!どうだ切れるようになっただろう!」
包丁は見違えるほど切れるようになりタイ人は驚き喜んだ。
「包丁が切れなくなったなら、これで研ぎなね」
砥石をあげたが、包丁を研ぐことはしない。
タイ料理の場合、刺身のように切り口の美しさを問題にしないから、
鋭い包丁を使う必要がない。
素材を叩き切るか、押し切りしている。
鋭利な包丁を使えば、力もいらないし早く処理できるから日本人は
包丁を研ぐ。効率なんてタイ人は問題にしないから包丁を研がない。
切れなくなるとタイ人もいらいらするらしい。
包丁をソムタムを作る時に使う素焼きの臼の縁や皿の糸底で二三
回こすって研ぐこともある。
こんな状況だから刃物研なんて商売は存在しないと思っていた。
自転車のサドルを取り付けた椅子のようなものを持った男が歩
いていた。
片手には砥石と水が入ったバケツを持っている。
椅子のようなものには砥石を固定する場所がある。
この男は刃物研ぎだと分かった。
刃物と言っても何を研ぐのだ。包丁だろうか?鋏だろうか?
2011/5/9
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